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2025/09/29 12:00

◆ 咲結を訪れた理由 ◆

端午の節句が近づくころ。
街のあちこちに鯉のぼりが泳ぎはじめ、空の高みで力強く舞うその姿に、子どもたちの歓声が重なる。

けれど、悠真はその鯉のぼりを、少し離れた場所から見つめていた。
「まるで、自分の夢が遠くに行ってしまったみたいだな……」

その日、「咲結」の扉をそっと開いたのは、そんな想いを抱えたひとりの男性だった。 季節は、春から初夏へと移ろうころ。
陽射しは少しずつ力を増し、けれど風にはまだ、やわらかな余白が残っている。

その日、「咲結」の扉をそっと開いたのは、一人の男性だった。
背広姿に、少し肩を落とした佇まい。
心のどこかに、迷いを抱えているように見えた。

「……ここ、前から気になってたんです」

名を、悠真(ゆうま)という。

かつて、夢を追っていた。
けれど、現実に押し流され、挑戦することすら怖くなったという。


◆ 決意を結ぶ水引 ◆

工房の棚に並ぶ水引の中から、紡が手に取ったのは、深い藍の「勝負結び」。 結び目は力強く、けれど、どこか静かな美しさを湛えていた。

「これはね、“決めた想い”を結ぶときに選ばれる結びです」

そう語る紡の声は、どこまでも穏やかで、嘘のない響きを持っていた。

「挑戦しても、結局また壁にぶつかるだけなんじゃないかって、怖くて……」

悠真の声は、少しかすれていた。

「ずっと夢だったんです。自分の店を持つこと。でも今の仕事を辞める勇気もなくて。 もうこのまま、無難に生きるのが一番だって……そう思おうとしてたんです」

紡は、黙って頷いた。そっと、もう一本、水引を添える。

「でも、心の中の結び目って、不思議とほどけきらないものなんですよ。 いちど結んだ想いは、たとえ隠しても、ちゃんとそこに残るんです」

悠真は目を伏せながら、水引の光を見つめていた。 「……本当は、自分を信じることが、いちばん怖かったのかもしれません」

悠真は、その結びを見つめながら、ぽつりとこぼした。

「挑戦して、失敗するのが怖かったんです。 でも……本当は、自分を信じることが、いちばん怖かったのかもしれない」


◆ 心の奥の結び目と、水引の提案 ◆

「夢をあきらめたと思っていた。でも、それはほどけたのではなくて、 ずっと心の奥に、そっと結ばれていたんですね」

紡は、静かにうなずいた。

「水引はね、時間をかけて、ほどけないものになるの。 だからこそ、ほんとうの想いは、意外と簡単には消えないんです」

悠真の手の中には、藍と金の二色で結ばれた「勝負結び」の水引があった。 それはまるで、これから歩む道を、そっと照らしてくれるお守りのようでもあった。

外では、風に乗ってどこかから鯉のぼりの唄が聞こえていた。
「夢を追う姿って、あの鯉みたいだな……」
悠真は心の中でそう呟き、静かに目を閉じた。

紡は、そっと奥から小さな木箱を取り出した。

「これは“あわじ結び”をもとに、咲結で仕立てた“勝負結び”という特別なかたちなんです。

もともと“あわじ結び”は、ほどけにくく、固く結ばれることから「末永いご縁」や「強い決意」を意味します。 その力強さを受け継ぎながらも、少しだけ形をアレンジして、“挑戦する人の背中を押す結び”として咲結でご提案しているんです。

藍色には冷静な決意、金には未来を切り開く光の願いを込めて……。 今回はね、その“勝負結び”を、額に収める“結びフレーム”にしてみませんか?

日々の暮らしのなかで、ふと目にしたときに、自分自身の気持ちを結びなおせるように。

日々の暮らしのなかで、ふと目にしたときに、自分自身の気持ちを結びなおせるように。」 藍色は静かな決意、そして金は成功への願いを込めています。 よければ、お守りとして胸元につける小さなペンダントに仕立ててみませんか?」

悠真は、その提案に目を見開き、ゆっくりとうなずいた。

「……それなら、毎日見るたびに自分に問いかけられそうです。 本当にやりたいこと、進むべき道を、忘れずに。」

悠真の表情は、ほんの少し、柔らかくほどけていた。本当にやりたいこと、進むべき道を、忘れずに。

「夢を追う姿って、あの鯉みたいだな……」

悠真は心の中でそう呟き、静かに目を閉じた。


◆ 再び結ばれた想い ◆

帰り際、悠真は手のひらに収まる小さな箱を、そっと胸元に抱いた。
それはたしかに、水引の結びでできた小さな額装だったけれど、 彼にとっては、自分自身と交わした約束のようにも感じられた。

「また、始めてみようと思います」

その言葉は、咲結の空間に、静かに、でも確かに響いた。

過去の失敗や迷いは、ほどけてしまった結びではない。
むしろ、いま再び結びなおされるための“余白”だったのかもしれない。

「きっとまた迷うこともあると思います。でも……結びなおせば、いいんですよね?」

紡はやわらかく笑い、静かにうなずいた。

「はい。想いのかたちは、変わってもいいんです。大切なのは、また結ぼうと思える心ですから」

悠真の足取りは、来たときよりも少しだけ力強く、けれどどこか軽やかになっていた。
空を見上げれば、風にゆれる鯉のぼりが、悠々と空を泳いでいた。

まるで、「大丈夫」と言ってくれているかのように。


◆ 結びのことのは ◆

紡は、風の揺れる工房の静けさのなかで、ふと目を伏せ、 まるでひとりごとのように、ゆるやかに短歌を口にした。

「つよき糸 たちきれぬまま 結ばれて
ときを越えゆく 想いのかたち」

その声には、どこか祈るような、やさしい響きが宿っていた。

「……この歌はね、いちど強く結んだ想いは、たとえ時間を越えても、 心の奥でずっと結ばれたまま残っている、という意味なんです」

紡は、そっと悠真のほうを見やった。

「悠真さんの夢も、ずっと胸の奥に、ほどけずにあったんだと思います。 いま、こうしてご自身の手で、それを結びなおした。 それって、本当に尊いことなんですよ」

結びし想い、風のまにまに。さて、つぎなるご縁はどなたでございましょうか……。


つぎなる結び|第三の筋『兜の結び──戦う勇気』

小さな背中に秘めた、戦う勇気。
剣道の大会を前に、自信を失くした少年が、母とともに咲結を訪れる。
紡がそっと差し出したのは、「兜の結び」。

それは、勝ち負けではない、“向き合う心”を結ぶ水引。
少年の一歩は、勇気という名の結び目へと変わってゆく──。


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